小さな幸せ

夫 Side

深夜に帰宅すると妻がリビングで待っていた。
「またタクシーなの? 9,000円もかかるのに!」
今月は送別会や接待が続いていた。
「仕方ないだろ! 俺にも付き合いがあるんだよ!」
「それはわかるけど、毎回タクシーってどうなの?」
妻は呆れたようにため息をついた。

週末、子供と公園で遊んでいると近所の人から
「もうすぐ深夜バスが始まるらしいよ」と聞いた。
片道2,000円で帰れるという。
定期があれば、さらに片道料金を引いてくれるらしい。
ということは俺の場合は1,480円で帰れる。
これは妻も喜ぶと思い、帰ってすぐにその話を伝えた。

次の飲み会の日、早速深夜バスを利用した。
浮いたお金で、内緒のお土産も買っておいた。

バスを降り、夜道を家まで歩く。
今日は少し誇らしい気分で玄関のドアを開けた。

裏面へ

妻 Side

夫から深夜バスの話を聞いたとき
「7,500円も浮くなんて、服でも買えちゃう金額じゃない!」
と驚いた。
「遅くなる日は絶対深夜バスで帰ってね」と念を押す。

この前は少し言いすぎたかな、とも思っていた。
彼の人付き合いの良さは長所でもある。
でも、タクシー代9,000円の連発はさすがに痛い。

次の飲み会の日、夫はちゃんと深夜バスで帰ってきた。
そして、その手には私の好きなチョコレートが。
「え、これ買ってきてくれたの?」
思わず口元がほころぶ。
こういうところが憎めない。

「お茶入れるね」

ソファーに座り、チョコレートの箱をあける。
彼は隣で誇らしそうにお茶を飲んでいる。
深夜バスが節約とともに
小さな幸せを運んでくれたような気がした。

表面へ

深夜バス
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