なぜ宇野バス独自の運賃無料デーを実施するのか?

社長が語る経営戦略

なぜ宇野バス独自の
運賃無料デーを実施するのか?

今回は「なぜ宇野バスが独自に運賃無料デーを実施するのか?」について、その理由を、私、社長の宇野からお伝えしたい。

2022年(令和4年)、岡山市主催の運賃無料デーが実施された。実施前はその意義に疑問を持っていた。無料デー当日は外出が増えて経済効果も高まるだろうが、それは一時的なもので、翌日からはいつもの客足に戻るだろうと思っていた。ところが回数を重ねるにつれ、コロナ禍で大きく減少した乗客数がコロナ禍前の水準近くまで戻り、無料デーは乗客数の回復に大きく寄与することが分かった。これには正直驚いたし、無料デーの効果に気づかせてくれたことに感謝している。令和4年の無料デーは8回実施されたが*1、その効果を感じ始めた頃からこんなことを考えていた。

路線バスは公共性の高いサービスではあるが、一民間企業としていつまでも行政に依存するべきではなく、宇野バスが自ら無料デーを実施し、コロナ禍からの回復をより確かなものにすべきではないか、と。
しかし、自ら無料デーを実施するとなると、当然その日の売り上げはゼロ。それが毎月となると馬鹿にならない。将来の乗客数の維持回復のために自腹を切ってでもやるべきか悩んでいたが、その時ある考えが頭に浮かんだ。

*1 岡山市主催の運賃無料デーは令和4年に8回、令和5年に5回、合計13回実施され、1日の売り上げ相当分が岡山市から各社へ補填されています。

意義のある経営戦略

宇野バスは100余年にわたり、各地を運行させていただき、今日を迎えている。お客様の親御様、お祖父様・お祖母様、ひいお祖父様・ひいお祖母様にもご利用いただいたに違いない。そういう永きに渡って日頃からご利用くださっているお客様、そしてコロナ禍も変わらずご利用いただいたお客様にお礼をしたい。そんな想いが込み上げてきた。

それから、普段宇野バスを使うこともなく、これからも宇野バスを使うつもりのない方にも「少し面倒だけど、無料なら家族でバスで出掛けてみようか」と思っていただけるかもしれない。地元にこのようなバスがあると知っていただき、何かの時にまた宇野バスをご利用いただけるかもしれない。そんな考えも浮かんだ。

例えば、ネオポリスにお住まいの5人家族。親子揃って街に食事に出かけたいけど、車で行くと運転手はお酒が飲めない。バスで行くと、子供を入れて往復約4~5千円の運賃が必要になる。しかし無料デーであれば「ゼロ円」。この4~5千円分だけ、少しリッチなお食事をしていただくこともできる。

また例えば、お祖父様とお祖母様が、お孫さんに会うために無料デーにバスをご利用いただいて、運賃分をお土産代の足しにしていただければ、少しだけ良いお土産になって、お孫さんが大喜びするかもしれない。

そういう「少しだけハッピーな時間」や「少しだけハッピーなこと」に貢献できれば、いつもご利用いただいているお客様に対して、わずかばかりのお礼ができる。宇野バスとは今は無縁の方とも繋がりができ、将来のお客様になっていただける可能性がある。
これが宇野バスが自ら無料デーを実施する意義であり経営戦略だと思った。

このような想いから、令和5年より独自で(岡山市からの売り上げ補填を受けずに)運賃無料デーをスタートし、今日に至る*2。特に、インフレで多くのものが値上がりしている現在、無料デーを通じて少しでもハッピーな気分になってもらいたい。

*2 令和5年に実施した8回(岡山市と同日に5回、独自に3回)についても岡山市からの補填は受けていません。令和6年は1月~5月までは実施済みで、6月以降も毎月1回、宇野バス独自の無料デーを実施予定です。

路線バスにできること

もうひとつ、宇野バスが無料デーを通じて実施したいことがある。
それは、日本各地や世界各地で災害や戦争に苦しむ人たちへの「募金」だ。

本年1月~3月の無料デーでは「能登半島地震募金」を実施し、3回で合計770,116円もの多額な募金をいただき、日本赤十字社岡山県支部に寄付させていただいた。

4月4日には、台湾で大地震が発生して大きな被害が報じられた。
さらには、今、パレスチナのガザ地区最南部においてイスラエルの攻撃により、食糧支援も届かず、多くの人たちが食糧難、飢餓に苦しむ状態にあることが報じられている。肋骨が剥き出しの幼児の映像をご覧になられたお客様もいらっしゃるだろう。

こうした日本各地や世界各地で災害や戦争に苦しむ人たちに、岡山県の東備地方を運行する宇野バスにできることは何か?
「まずは、募金であろう」と考えた。

宇野バス自身が募金をさせていただくことは勿論*3、宇野バスをご利用のお客様にも募金を呼び掛けて、1人でも多くの方にご協力いただけないかと考えている。
お客様のなかにはもしかすると「またか。また募金か。しつこいのう。」とお思いの方もいらっしゃるかもしれない。しかし路線バスには、岡山県東備地方で暮らす人々の善意を、日本国内の被災地に、また、世界で起きている災害被災地や戦争被災地に届ける橋渡しの役割ができると考えている(これは思想信条とは全く関係ないものであることを、念のため申し添えておく)。

これからも宇野バスの無料デーでは募金をお願いしていく考えなので、皆様のお気持ちを募金を通して表明していただければありがたい。

*3 能登半島地震災害に対しましては、1月8日に金500万円、4月3日にはお客様からの募金に対する宇野バスの御礼として金100万円を日本赤十字社岡山県支部にそれぞれ寄付させていただきました。

少しだけのハッピーをたくさん

運賃無料デーは、乗客数の維持回復を目指す経営戦略ではあるが、ただそれだけではない想いを込めて取り組んでいる。以前の記事にも書いたが、大型バスの役割は、少人数ではなく、30人、40人、50人というお客様をお運びすることで、お役に立たせていただき、利益をいただくこと。それをまた再投資することで、もっと多くのお客様に、今よりもいいサービスを提供するという好循環を生んでいくこと。それが本来の「バスでお役に立たせていただく」というあり方だと思っている。

宇野バス独自の運賃無料デーで、お客様それぞれの「少しだけハッピーな時間」や「少しだけハッピーなこと」を実現していただければ、それは宇野バスにとってはたくさんのハッピーを生むことになる。大変嬉しいことだ。
これからも毎月1回、宇野バスの運賃無料デーを、ご自分の為、ご家族の為にうまくご活用いただきたい。