(3)アフターコロナのいま、いかに路線バスを走らせるか?

【シリーズ】社長が語る宇野バス品質

(3)アフターコロナのいま、
いかに路線バスを走らせるか?

前回、前々回はこれまでに宇野バスがやってきた品質改善についてお話しした。
最終回となる今回は、アフターコロナとなったいま、バス業界が直面している問題これからの取り組みについて、「いかに路線バスを走らせるか」というサービス品質の話を交えてお伝えしたい。

路線バス業界が直面している問題は

  • コロナ禍で減少した利用者の回復率が悪く、赤字路線が増加している
  • 運転手が不足して、コロナ前の便数へ戻せない
  • 車両が古く、新車への入れ替えができない

というものだ。

全国の多くのバス会社がコロナ前から給料の引き下げを行っていた※1のだが、コロナ禍で更に引き下げたために決定的な給料低下が起き、そのことが運転手不足の大きな要因となっている。
また、新車も買えない※2から乗り心地も悪くなり、お客様の満足度や運転手のモチベーションも落ちていく。
そしてサービスの質が落ちていくからお客様も離れていく。
そういう悪循環にあり、「バスを走らせる」という基本的なサービス自体が危うい。

※1 弊社ではコロナ前もコロナ禍も給料の引き下げは一切行っていない。
※2 弊社は2012~2018年にかけて全車両更新を済ませている。

先日、岡山市主催の協議会がコロナ禍を経て2年ぶりに再開された。
市が用意した議案は次の2つだ。

  1. 路線の再編(=2社3社が競合する路線をどう合理化するか)
  2. 運賃の適正化(=値上げ)

このままでは路線の再編なんてできない

路線の再編について、宇野バスはこう思う。
以前の記事にも書いたが大型バスの役割はたくさんの人を運ぶことだ。
それができない地域にはそもそも大型バスは向いていない。
別の方法を考えるべきだ。(例えばワンボックスのデマンドカーの事例もある)
だから、きちんと乗降調査をやって再編を考える必要がある。
運転手不足の状況を考えても、大型2種免許を所持している人を、大型バスが必要なところに配置しないといけない。特に、最近の大きなバス事故を見聞きして、大型路線バスの運転に適性のある運転手となるとさらに絞られる。
しかし自社だけだと限界があるし、各社の思惑でバラバラに動いては無駄が多く再編などできないだろう。
そこで、宇野バスからは会社の統廃合を提案させてもらった。
会社の統廃合つまり、会社の数を少なくすることにより、路線の再編(特に競合路線の再編)はもちろん、経営の無駄も改善しやすくなるだろう。

値上げは自分の首を絞めるだけ

値上げについてはこう思う。
経営が苦しいから値上げする、という発想の前にすべきことが山積している。
不採算路線をどうするかばかりニュースになるけど、街中(5km、10km、15km圏内)の多くのお客様がいらっしゃるコロナ前の採算路線(コロナ後にも採算が取れる可能性のある路線)に、いま、良質なサービスを提供できているか?
値上げでこの人たちが離れていかないか?
このことを忘れてはならない。
値上げはお客様を否応なくバス離れさせ、自分の首を絞めることになる。

コロナには困ったけど、それでも半分のお客様は乗ってくださっていた。
そういう大変な時でもバスを頼りにしてくださっていたお客様がいらっしゃったことを忘れず、安く良質なサービスを提供したい。
宇野バスが値上げを検討するとしたら、やるべきことをやり尽くした後だ。

運賃据え置きでの経営改善を!

つまり、やるべきは「運賃据え置きでの経営改善」だ!
できることはいろいろある。
例えば、

  • 巨大な一般管理部門、非乗務部門をスリム化する
  • 回送などの無駄な走行キロを極力減らすダイヤを組む
  • 大型バスじゃなくてもよい路線を調べ、サービスを再検討する

これらを実行すれば運賃を上げなくてもやっていける。
最初の2つは宇野バスでもやってきたし、これからもやり続ける。
3つ目の路線見直しはこれからやる。 
岡山市が描く絵の中で、会社統廃合(会社数の少数化)によって岡山市全体の最適化を行い、そのうえで残った各社が経営を如何に最適化するかを考えたい。
そしてバス業界が直面する問題を乗り越え、「安く走れる」「マネできないサービスがある」という宇野バス品質を多くのお客様に提供して喜んでいただきたい。
そう思っている。

運賃無料デーが気づかせてくれたこと

少し話はそれるが市が主催する路線バス無料デーの話。
実施前は意味があるのか疑問に思っていたが、今では効果を実感している。
コロナ以前は売上が毎年2~3%落ちていたが、今はコロナ禍4年を経て、同じペースでは落ちていない。それは、無料デーがお客様にバスを気軽にご利用いただく機会になっているからではないかと思う。多くの運転手も、そのように感じていた。
そう考えると、無料デーは「バスの利用を促進するために企業が先行投資として取り組むべきもの」だ。そのことに気づかせてくれたことを市に感謝している。

そこで昨年度は市の無料デーとは別に、宇野バス独自の無料デーも実施した。
その際には湯郷温泉への直行便も走らせた。
その後、有料となった今もすぐに予約が埋まる人気サービスになっている。
まだまだやれることはあると思った。

ちなみに市の無料デーは売り上げ相当額を市からいただける(市がお金を負担している)が、宇野バスでは今年からお金をいただかないことにした。
アフターコロナとなり客足も戻ってきたこと、さらにはコロナ以前と比べても客足の減少が鈍化していることから、この先この問題は行政に頼らず、一民間企業としてバス会社が自分でなんとかする番だと思ったからだ。
昨年分の市の負担金も、昨年度に宇野バス独自の無料デーを実施して社会に還元したつもりだ。
今年も市からの補助金をいただかずに7回宇野バス独自の無料デーを実施する。

こういうバス利用促進の取り組みもまた、経営改善の一つと言えよう。

100周年に何もしなかった

さて、
この連載ではいくつかの「改善」についてお話ししてきた。
今回の路線再編や運賃のようなサービスの基盤となる話もあれば、タイヤやエンジンオイルなどのパーツの話もある。ほかにもこの連載ではお伝えしきれないような小さな改善もたくさんある。
でも、どれが一番ということはない。どれも同じくらい大切だ。
小さいことにも気を配り、無駄を見つけては取り除き、きちっとした仕組みで毎日を過ごす。
それが安心してバスを走らせる、快適にバスに乗ってもらう土台になる。

補助金をもらわないのは、自分たちの力で事業をまっとうしたいと考えているからであり、それはつまり自分たちで小さなことにも気づくためにほかならない。
補助金に依存しだすと、それに頼って見えなくなるものがある。
自分で工夫しようと思わなくなる。
補助金をもらわず、自分たちで問題に立ち向かい困っていると「なんで今までこんなことに気づかなかったのか」という気づきが常にある。
気づきがあれば、自分たちで工夫をするようになる。
これが「宇野バス品質」を維持、成長させていく原動力だと思っている。

連載の冒頭で「100周年に何もしなかった」とお話しした。
100年という時間的な節目はもちろん大切だ。
それだけ事業を続けてこられたことには、創業以来の多くの先輩たちのご苦労とご活躍、そしてご利用いただいた多くのお客様に深く感謝している。
でも、何かを改善した年を積み重ねた結果の100周年であり、その1年1年が感慨深い。
試行錯誤してベストなタイヤを見つけた年。
エンジンオイルが絶大な効果を生むと分かった年。
安心できる整備体制が整った年。
値上げしないと決めた年。
この先やってくるであろう、バス業界の問題を乗り越えた年。
1年1年の積み重ねが間違いなく「今」を作っている。

100周年ばかりもてはやしたら、他の年がかわいそうだ。
100周年を祝うなら、そういう年を祝いたい。
毎日の地道さを祝いたい。
宇野バスはこれからも毎日小さなことに気づき、工夫して、きちっとした仕組みを作っていく。
そして「いつも通り」バスを走らせる。
それが宇野バスの仕事だ。

(完)