(1)新しいだけじゃ駄目。日々改善!

【シリーズ】社長が語る宇野バス品質

(1)新しいだけじゃ駄目。日々改善!

2018年、宇野バスは創業100年を迎えた。
でも、式典も、お客様への案内も、何もしなかった。
なぜか?
少し長くなるが、その理由を全3回にわたり、私、社長の宇野がお話させていただく。

従業員の日々の努力のおかげで、宇野バスは綺麗で乗り心地が良い、と言っていただける。社会情勢や景気に左右されながらも、できるだけ早いタイミングで新車にも入れ替えてきた
でも、単に車両が新しいから快適、というわけではない。お客様の命を預かって走っていることを考えると、安全面での品質向上と維持が欠かせない。しかも、運賃を値上げせず、補助金ももらわず、自分たちの工夫でより良いものにしたいと考え、取り組んできた。

2~3年かけてタイヤ選び。

例えば、タイヤ。
昭和50年半ばまで、路線バスのタイヤはチューブタイヤが主流でパンクも多かった。パンクは事故にもつながるし、バスも遅れてお客様にもご迷惑をおかけすることになる。
そこで、それまで取引のなかったブリヂストンタイヤ(以下、BS)に相談したら、町島(以後、私のタイヤの恩師である)という方が協力してくれた。

BSから提案があったのがラジアルタイヤへの変更だ。
ラジアルタイヤなら釘(くぎ)や棒頭(ぼうとう)を踏んでも直ぐに走行不能になることはなく、50〜60kmくらいなら走行できる、という。これなら宇野バスで一番遠い林野からでも帰って来ることができる。さらに、乗り心地も良くなるし、燃費も伸びる。但し、価格は上がる。と説明を受けた。

当時、BSでは長距離トラックや貸切バスでの使用実績はあったが、路線バスのように短い距離でのストップ&ゴーや、バス停への入り込みなどタイヤへの負担が多い環境での実績がなかった。
そこで、宇野バスがラジアルタイヤを購入し、BSからも一部無償提供してもらって、各車庫で数台ずつ装着して、実運行でのタイヤテストを2~3年かけて実施した。
当然自分たちも乗ってみた。
自分たちが乗っていて、どれだけ快適に乗れるかを常々考えている。

果たして、ラジアルタイヤの乗り心地はすこぶる良く、パンクなどの故障も大幅に減った。それどころか走行距離が大幅に伸び、燃費も約3%あまり伸びた。途中パンクによる運転手のストレスもなくなった。タイヤ価格は上がってしまうが、総合的に考えると大幅なコスト削減になることもわかった。
それ以来、現在でもタイヤはBSを使っている。

タイヤといえばもうひとつ。
タイヤ費用削減のため、使用済み中古タイヤをリサイクルした再生タイヤがある。
再生タイヤは新品タイヤと比べると価格が安いため、前も後ろも再生タイヤを使っている路線バスもあると聞く。
しかし、宇野バスでは再生タイヤは使わない。6本(前2本、後4本)とも新品を使用している。なぜなら再生タイヤは、新品タイヤと比べて走行中にバースト(破裂)する可能性が高いからだ。
いくら経費削減になるからといって、万一バーストしたら大きな破裂音がしてお客様には大きな不安を与えるだけでなく、走行不能になり、大変なご迷惑をお掛けすることになる。コスト削減は経営においては大変重要だが、それはお客様の安心や安全の品質を確保したうえでのことであり、安心・安全の品質を落としてまでやることではない。

たかがエンジンオイル?!
猛反対されても、やってみる。

二つ目の例は、エンジンオイル。
やはり、昭和50年代、エンジンオイルはシングルグレードと呼ばれるオイルが純正指定であり、主流だった。
そんななか、エッソ(アメリカの大石油会社)にマルチグレード(10W-30)のエンジンオイルを提案された。値段は数段高いが、燃費が伸び、交換距離も大幅に伸びるということだった。

今では純正指定されて当たり前に使われているが、当時は「そんなわけのわからんオイル使ってくれるな!」と車両メーカーから猛反対された
猛反対、うーん、燃えてくるねー!!
じゃあ、うちがテストしてみよう。
年式別・路線別にテスト車両を決め、各車両5,000km走るごとにサンプル缶にオイルを抜いて、県の工業試験場に持ち込み、性状試験(オイルの状態の化学的検査)を2年かけて実施した。

結果、テスト車両全てにおいて、全く問題がなかった。
それどころか、車両メーカーが定めたオイル性状を上回る数値を示したのである。
エンジンオイルの交換距離が大幅に伸び、燃費も数%伸びた。
当然エンジンにも良いということだ。エンジンオイルの交換時の状態は、いままでのオイルではエレメント(濾過装置)にオイルがへばり付いている状態で「どろっ」としていたが、新しい10W-30オイルは、エレメントからサーっと落ちて液体状であった。

これには驚いた。
このオイルを使えば、故障が減り、長期的な安全性の向上につながる
エンジンオイルの価格は相応に高くなるが、燃費が伸び、交換距離が延び、エンジンオイル交換時に交換するエレメントの交換距離も延びるなど、部品コスト、交換作業費も減る。そして、大幅に交換距離を伸ばしたにもかかわらず交換時のエンジンオイルの状態は「サラサラ」なのである。その後も、10W-30が品質改良されており、それを使用している。
たかがエンジンオイル、されど、エンジンオイル!!
効果は絶大だった。

考えて、やってみて、また考える。
日々課題を見つけて改善!

ほかにも、ブレーキライニング(摩擦材)やクラッチディクスもそうだ。
昭和50年代まで、年間の車両走行距離が一番長い車庫に所属する車両のブレーキライニングが1年もたなかった。車検から車検までもたず、途中で交換しなければならない。
車両管理上、ブレーキライニングとその交換費用はかなりの金額を占める。
車検時に交換する場合と途中交換する場合では交換作業費に大きな差があり、この改善は大きな課題であった。
そこで、多くの部品販売業者と、いろんなメーカーのブレーキライニングを試験していくなかで、三菱鉱業セメントの商品に出会った。1年もった。
その後、ブレーキライニングがノンアスベストになったが、ノンアスベスト製品でも大丈夫であった。

クラッチディスクも同様にテストした。
オーバーホール距離が大幅に伸びた。価格の上昇を上回る寿命の伸びである。

宇野バスではこのように、日々の品質向上とコスト削減の両立に課題をもって取り組み、決してあきらめないで続けてきた。タイヤ、エンジンオイル、ブレーキライニング等々の改善は大きな効果をもたらしてくれた。
交換部品の価格が上がっても、きちんと試験をし、その品質が良いと分かれば、トータルでは品質向上ができてコストも削減できるのだ。

そしてこれらの改善効果をさらに高めたのが「整備(法定点検、車検、重整備)の外注化」だ。なぜ、整備の外注が関係あるのか?
理由はこうだ。
交換部品の品質がよければ、交換距離が伸びて交換回数が減る。
交換回数が減るということは、交換作業も減るし、交換部品も減る。
ところが、自社整備工場での整備の場合、交換回数が減っても作業費は変わらない。なぜなら、整備士の人件費を減らすわけにはいかないからだ。
車両整備の外注化については回をあらためてお話しするが、定年退職者を補充せず、自社整備士による整備と外注整備を組み合わせて、時間をかけて、完全外注整備化を実現した。

(次回へつづく)